院長 / つぶやき / 2022.8.18 21:40

細菌にのみ効果のある薬です。

だからウイルスには効きません。

例えば人の方で「風邪」という診断がされた場合には
抗生物質の処方はされません。

これが普通なんですが、抗生物質がやたらめったら使われる場面というのは
残念ながらあるわけで、その結果「薬剤耐性菌」が出現してしまうわけです。

有名なのは「MRSA」ですがご存じでしょうか？
これはブドウ球菌というそこらにいる細菌なんですが
特に皮膚には普通にいます。
ただ体表面にいるときにはさほど悪さはしませんが
体内に入るとなかなか厄介です。
ブドウ球菌で起こる疾患として一般的なのは食中毒ですが
ブドウ球菌であり薬剤耐性菌が体内に入ると致命的なんです。
特に問題になるのが肺炎と言われていますね。

このほかにも薬剤耐性菌はどんどんと増えているようで
WHOの勧告として「抗生物質の乱用はダメ！」と言われています。
発信がWHOですから人の方だけだったんですが
獣医領域でもこの勧告を受けて抗生物質の使用については注意をするように、となりました。

個人的には「何をいまさら」と思ってますが
確かに抗生物質の乱用ともいえる状況が残念ならがありますね。

例えば「骨折」の症例に抗生物質を投与した、などというのが一番多いように思います。
成形外科のできない病院をに症例を連れて行くと抗生物質の注射をされるようです。
普通に考えたら「開放性骨折なのか？」と思いますが
全然そんなことはなく、それなら鎮痛剤を使えよ、と思いますけどね。

ただ最近耳にしたことですけど避妊手術や去勢手術の術後に
抗生物質を使わない、ということを言っている獣医がいるとのこと。
これはこれで理解できませんが、おそらく「無菌手術をしている」と思い込んでいるんでしょう。
手術に関して滅菌した器具を使うこと、これは当たり前です。
無菌手術というのは「可能な限りそれを目指す」という努力はしますが
完全無菌手術は不可能です。
仮にそれをしようとするなら「完全無菌室」で手術を行うこと。
手術検体の全身を滅菌処置を施すこと。
手術室にある機械類をすべて滅菌処置をすること。
手術室内に強制換気システムを導入すること。
最低限以上が必要なんじゃなかろうかと思います。

私自身大学の時細菌培養の仕事をしてた時期がありまして
滅菌だの無菌だのにはかなりうるさいです。
病原菌の培養やらやりましたけどちょっとでも手順を間違うと命にかかわりますから
そのドキドキはたまらんですよ。

現実には完全無菌手術は不可能ですから
術後の感染予防に抗生物質を使うことには何ら問題はありません。
特に避妊手術は開腹手術ですからこれで術後抗生剤を使用しないというのは無謀でしょう。

獣医領域で抗生物質の乱用、とまでは行かなくても多用によって
薬剤耐性菌が問題になるのは皮膚疾患と泌尿器疾患のような気がします。
特に皮膚疾患では原因がいろいろあるわけですから
細菌性皮膚炎と診断した時以外に抗生物質を使うことはないはずなので
きちんと除外診断が出来ていればそれでいいと思うんですが
中にはダニによる皮膚炎が診断されておらず殺ダニ剤を使うところを延々と抗生物質を投与されていたり
実は皮膚病じゃないのに抗生物質が使われていたりということもありましたね。

薬剤耐性菌を動物が持っているとなると問題なのは
それが人に、特に飼い主さんへ感染する可能性が極めて高いということです。
もちろん診察にあたる我々獣医師も同じです。

抗生物質は人類が持つ感染症対策の大きな武器であることは間違いありません。
ただ細菌にしか効かないよということを知ってないとダメですねぇ。
魔法の薬で何でもかんでも効くということはないわけですから
基本通り「正しく使用すること」が大事ですね。

ちなみに・・・
動物は人間より抗生物質が効きません。
効きませんというより体重換算すると人間で使う量より相当多い量でないと効果がないんです。
これは抗生物質以外の薬でも同じことがあります。
だから動物の治療は医師には出来なく、獣医師にしかできないんです。
ゆえに「正しく使うこと」がホントに大事なんですねぇ。

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