院長 / つぶやき / 2023.4.10 16:59

というのをつくづく感じる症例でした。

他院からの転院事例（猫）ですが
飼い主さんの言うところでは

・急に食事を食べなくなった
・押入れの中にこもるようになった

ということで心配になり病院を受診したということでした。

それでレントゲン検査をし「肺炎ではない」となり
診断は「風邪」となり点眼薬などが出たということでした。

これを聞いて
『血液検査はしてないのかな？』
と考えるのは普通だと思います。

猫の「風邪」は基本的にウイルス性疾患ですので
ワクチン接種の有無を確認し
感染ルートの有無を確認しますが
その前に見ればわかります。

先日の京都での話のぶり返しになりますけど
診察にあたって重要なのは正しい手順で行うことです。

まずは「問診」
飼い主さんの訴え（主訴）を聞いて
それについての詳しい情報をこちらからも聞き取りします。
そのやり取りがあってこそおおよその見当がつくわけです。
この時点では診断はつきませんが、少なくとも体のどの部位に問題があるのか
ということはわかります。

風邪というのであれば呼吸器系疾患ということになりますから
症状（目ヤニ、鼻水、くしゃみ、咳）があるかどうかを確認します。
つまりこれは「見ればわかる」ということです。
逆に症状がないのであればその時点で風邪は否定的ですね。
ちなみに本症例は風邪を疑わせる症状はありませんでした。

１００歩いや１００００歩譲って風邪の可能性を考えて
レントゲン検査を行ったとすればそれは肺炎の有無を確認したと思われます。
実際「肺炎はない」と言われたそうですので。
ならばなぜその前に血液検査をしなかったのかな？となります。

大学の先生と話していて盛り上がったのはまさにこういうことでして

まずは問診
それから視診、聴診、触診
これら身体検査を必ず行い
それから検査という次のステップに入る、ということです。

臨床の場では順番を「端折る」ということも確かにあります。
例えば、明らかな骨折事例であれば
最初にレントゲン検査をすることもあります。
ただ骨折症例は手術が必須ですので
血液検査や他に必要な検査は後ほど行いますが
な是最初にレントゲン検査をするかと言いますと
飼い主さんに明確な病変を先に確認してもらうためです。

果たして今回の症例の食欲不振の原因は？
飼い主さんへの問診が終わり、身体検査を行ったところ
呼吸器症状は一切ありませんでした。
となると腹部の問題が浮上してきますので
そちらの問診を行いまして
これまでに間欠的な嘔吐があることが分かりました。
それを受けて血液検査をしたところ
軽度ではありますが黄疸が見られました。

黄疸となると肝臓を中心に考える必要があります。
それは肝前性、肝性、肝後性のいずれかに問題があるということになります。
血液検査で肝前性は否定できましたから
次にはエコー検査を行いました。
結局肝性の黄疸で、その原因は胆嚢体部の奇形、複葉が確認できました。

ということで本症例の食欲不振の原因は胆嚢炎ということになります。
また胆嚢炎で時々見られる腹部痛の症状もあることが分かりました。

順序をきちんと守っていれば黄疸を見逃すことはなかったと思いますけど
レントゲンでは黄疸はわかりませんから。

色んな意味で、なんとももったいない話だなぁと思いました。

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