院長 / つぶやき / 2017.12.20 22:47

血液検査でわかるか？というとそうでもないです。

血液検査は一応の目安として考えるべきもの、なんですね。

例えばちょっと前は
AST（GOT）やALT（GPT）が肝臓を
ＡＬＰやGGTは胆管の状態を「反映している」と思われていましたが
実はそうじゃありません。

特にAST（GOT）は必ずしも肝臓の問題だけで数値上昇はありませんから
最近では肝臓の検査項目から外されています。
猫では若干「目安」にしてもいいようですけど
同じくALP上昇もも胆管だけとは限らず、です。

東大の先生に言わせると
どれもこれも肝臓の検査項目としては不十分だそうで
強いて言えばＴＢＩＬ（総ビリルビン）かな、という事です。

じゃあどれを調べても無意味かというとそういうわけじゃありませんよ。
１つ１つを取ってあれこれ言うのじゃなく
まず症状を鑑みて検査データを総合的に判断しなくちゃダメ、という事です。
まあ、当たり前なんですけど。

例えば先日こういう例がありました。
急性の嘔吐がありしかも立て続けに７〜８回あったそうです。
しかしその後嘔吐はピタッと治まったものの
食事を食べないという事でした。

一見するとケロッとした顔つきですし
腹部を触っても痛みもありません。
熱も平熱でした。
血液検査をしてみると、白血球・赤血球は正常。
しかしALTは＞1000、ALPが500以上、GGTが32、TBILが0.8と
いずれも異常値でした。
これだけ見ると「急性肝障害」と言いたいところですが
当の本人はなにせケロッとしています。
しかも入院中全く嘔吐もなく、入院初日から普通に食事をしました。
ちなみに何の処置もしていません。
2日たってもう一度血液検査をしてみると
ALTは500、ALPが300、GGTが21、TBILが0.2でした。
もちろん嘔吐もなければ食欲も正常、どころかガツガツでした。

何もしていないのに数値が下がっているのはどういう事なんでしょう。
しかも数値だけ見ると相当悪い感じがしますけどね。

おそらく原因は肝臓じゃないんです。
肝臓の数値がたまたま上昇しただけで
肝炎ではなく、胆管炎でもないんです。

これも東大の先生の受け売りですけど
肝臓系酵素は「お腹の異常があると上昇する」のです。
つまり肝臓以外にトラブルがあっても数値上昇するんです。

実はこの症例、これまでずっと（約1年半）肝臓の薬を飲んでます。
だから肝臓が悪くなるとすれば薬の副作用以外では考えにくいです。
ただし副作用ではないですけどね。

急性しかも連続性嘔吐。
これがすべてだっただろうと思います。
嘔吐物の中に原因があったと思いますが
確認できてないのではっきりとはわかりませんが
多分胃を刺激する「何か」を誤食したんだと思います。

肝臓については血液検査だけではなくレントゲンとエコー検査もしましたが
いずれも「ちょっと腫れぼったい」と言うだけで
明らかな病変はありませんでした。
つまり「ホントの肝臓病」ではないという事です。
だから何もしなくても数値改善があったんだと思います。
もちろん臨床症状は何もないですから
治療の必要は全くないです。

ホントの肝臓病、つまり急性肝炎だとすれば
臨床症状はもっとひどくしかも続くはずです。
それに治療せずにたった2日で数値が改善するわけがありません。

最初から症状と検査結果が一致しないので
「変だなぁ〜」と思ってまして
症状が何もないので治療もせず経過を診てました。

こういう事例は珍しいものじゃありません。
総合的に評価すると書きましたが
まずは臨床症状があって、検査結果と照らし合わせをして
合致するかしないかを考えてから
最終的に診断を下す、というのが医学・獣医学の基本です。
検査の数字だけで判断すると不必要な投薬・治療をおこなうことになり
却って体調を悪くすることになりかねません。
こういうことを「木を見て森を見ず」と言うのです。
専門家なら重々肝に銘じておかなければなりません。

| comments (0) |