院長 / つぶやき / 2018.8.18 23:04

正常値と異常値の解釈ですね。

例えば腎臓の数値では
特にCreの数値は厳密に正常値と異常値の区分がされています。
これは全世界的に流通しているはず・・・なんですが
時に「それっていつの時代の話？」と言う数値を用いている病院があります。
そういう場合には飼い主さんに「現代」の標準を説明しています。

これに対して肝臓の方は、と言うと
案外と「アバウト」であるのが実情です。
測定する機械によってもかなり違いがありますし
専門家、と言うか正常値を示している人によっても随分違います。
当院では正常値を一応区分していますけど
厳密に、これ以上は異常値と言う風に
数値だけでの評価はしていません。

教科書にも書かれていることなので
これこそ常識なはずなんですが
「肝臓検査」と「肝臓機能検査」は違うものです。
前者は肝臓の状態を示しているもので
後者は肝臓の働き具合を見るものです。
どちらがより重要かという事も考える必要があるんですが
個人的には後者の方、つまりちゃんと働いているかどうかを重要視しています。

よく「前の病院で肝臓が悪いと言われた」と転院してくる患者さんがいます。
検査データを見せてもらうと検査項目が
「たったこれだけ？」
という事が多々あり、これで肝臓が悪いとは言えんわな、と思っています。

肝臓が悪いということなら機能が低下しているという事ですから
生きていくこと自体にトラブルとなるわけです。
しかし肝臓が、例えば「腫れている」と言う程度であれば
肝臓の修復能力を利用して治療すればいいのであって
部分的損傷ならすぐに回復するはずです。
そもそも肝臓は一部を切り取っても割とすぐに再生します。
これに対して機能低下と言う状態であれば
肝臓の一部ではなく相当な部分、あるいは全体として
とらえなければなりません。
例えば肝硬変などがこれに当たります。
肝硬変は部分的異常ではなく全体的な異常が起こっていますから
由々しき事態なわけです。

肝臓検査だけをして「肝臓が悪い」と言うのは正しい評価とは言えず
肝臓機能検査を並行して行ってこそ正確な評価となるはずです。

こういうことを踏まえて。
例えばALT（GPT）が100や200だとしても
機能検査項目が正常であれば「肝臓が悪い」のではなく
部分的に損傷（腫脹）がある状態と評価します。

以前ならった血液学セミナーでは
「検査数値は『見る』のではなく『読む』ものだ」
そう習いました。

確かにその通りだと思います。
１つ１つの数字だけを見てあ〜だこ〜だというのは
誤診の元です。

昔から言われる通り
「木を見て森を見ず」
では正しい診断は出来ない、はずだと思います。

そして正しい診断をするためには
検査項目が少なくては話になりません。
それは血液検査だけではない、という事です。

先の腎臓については血液検査だけであれこれ言う時代ではないです。
腎臓機能を評価するには尿検査は必須ですし
最近では画像診断も含めての評価も行われています。

時代とともに常識は変わってきます。
いつもは「獣医療は日進月歩」と言っているわけですから
自らの頭の中も進歩させないとダメですね。

以前、ある先輩獣医師から
「若い獣医に外科の技法は教えられるが、内科の知識は自分には教えられない。
　だからどんどん学会やセミナーに出席して新しいものを吸収するよう指導している」
そう聞かされました。
その先生はそう言いながらもご自身で積極的に
学会に参加・発表されているんです。
こういう方が前を歩いておられますから
まだまだついていかないといけないと思うんです。

古臭い知識をもって診断するのはとても危険です。
最新の情報をもってしても完璧とは言えないでしょう。
でも少なくとも「今の時代の常識」は身に着けておかないと
非常識な獣医師になってしまうかもしれません。
私もすでにベテランと呼ばれる年齢となりました。
「老害」と言われないように気を付けて日々過ごしています。

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