院長 / つぶやき / 2018.7.29 20:09

これはとても大事なことです。

急に嘔吐が連続して起こったため病院に連れて行った飼い主さんからの話です。

状況を説明して、さあ検査かなと思ったらいきなり注射をされ
「明日、嘔吐が止まらなければまた連れて来てください」
飼い主さんにしてみれば、これで治ればいいねと思ったそうですが
現実はそう簡単ではありません。
翌日も嘔吐が止まらずまた病院へ連れて行く羽目になってしまいました。
結局その後３日間症状は改善せず、別の病院へいったそうですが
そこでも同じような対応で、やはり症状は改善しなかったということでした。

結局最初の症状から５日経過してしまいました。

稟告は急性の嘔吐で、食欲もないという事です。
この時点でどういう病気を考えたのか、私にはわかりませんが
「急に」と言うのが引っかかります。

前日までは何ともなかったという事ですから
まさに急性の症状なので、ただ事ではないはずです。

通常はここで血液検査を行い、問題点を炙り出しますが
ちなみに当院で行った血液検査では多少の異常値はありましたが
急性の嘔吐の原因となるものは見つかりませんでした。

ではどうするか？

『なんだかよくわかんないけど吐き気を止めよう』

私はこうは考えません。
血液検査でわからなければ画像検査へ進みます。
まずは単純レントゲン撮影をします。
もしくは腹部エコー検査を行います。
時には併用します。

原因がわからなければ、少なくともどこが悪いのかがわからなければ
処置のしようがないからです。

胆嚢炎や膵炎の場合には詳細な血液検査や腹部エコー検査で診断できます。
しかし消化管内異物の場合、だいたいがレントゲンに写らない素材が原因の事が多いので
単純レントゲンでは分からないので造影検査を行います。

結局この症例はレントゲンに写らない異物が３種類存在しており
特に問題だったのはそのうちの１つが布製素材で
それが一部ばらけてひも状になっており
胃から始まり回腸の末端近くまでをアコーディオン状に変形させていました。
時間が経っていたのでひもが消化管に食い込んでおり
小腸の数か所が虚血性壊死を起こして内容物が漏れていました。

結局、胃切開と腸管切除を行うことになったんですが
小腸は66ｃｍもなくなってしまいました。
ここまで小腸が無くなって生きていけるのか
今のところ何とも言えません。

この症例では造影検査をして初めて診断がついたわけですが
この造影検査は決して特殊なものではありません。

以前某大学の先生の講義を受けた際
『嘔吐が主訴の場合、私は造影検査を必ず行います』
こういわれていました。
当院では消化管の異常が疑われる場合にのみ
造影検査を行いますがそのハードルは低いです。
つまり割とすぐに行う、ということです。

いろんな検査をすべてやる、という事ではなく
疑わしいものを１つずつ除外して行って
最終的にどこに異常があるかをつきとめていくわけです。

そしてそれは処置を行う前に行う事であって
処置をしてから、よくならなかったらじゃあ検査するか、とは考えていません。

検査は診断のために行うものです。
診断がつかなければ処置の方針が立ちません。
だから最初に行うものであるわけです。

大学でそう習ったはずですけどね。

| comments (0) |