院長 / つぶやき / 2014.4.30 21:00

成長期の骨折としてはこれが一番考えられます。
しかも手術はなかなか厄介です。

1本の長い骨と言うのは、基本的には3つのパーツに分かれています。
それぞれは軟骨でつながっており、成長とともにその軟骨部分が伸びてくるわけです。
その部分はレントゲンでは透けて見えますのでそれを「成長線」と呼びます。
この部分は軟らかいので軟骨自体がクッションの役割を果たしますが
過剰な力、特に回転運動が加わると成長線が「引きちぎれて」しまいます。
これを「剥離骨折」と呼びます。

人間も動物も「子供の体は軟らかい」と言うのは骨も含まれるわけですね。

さて、剥離骨折が起こると当然手術の適応となるわけですが
この手術がなかなか難しいんです。
大人の骨はそれ以上伸びませんからがっちりと固定できるんですが
子供の骨はまだまだ伸びますからあまりがっちりと固定することは出来ません。
「伸びるだろう」と言う予測をして、その分余裕を持たせないといけないんです。
かといってあまり余裕がありすぎると今度は固定力が足りなくなって
せっかく手術をしたのに破綻してしまうと言う事にもなりかねません。
その辺りの「力加減」が難しいと言うことです。

しかも、この剥離骨折と言うのはあまり経験することがありません。
私自身これまでの経験上、数例程度だと思います。
それゆえ「数をこなす」と言うことが出来ませんから1例1例の経験を
しっかり体と頭に記憶させておかないとダメですね。



赤丸で囲んだ部分が「脛骨粗面剥離骨折」です。
ここは大腿部の筋肉から膝蓋骨の上を通っての、筋肉の終着点です。
この症例ではおそらく滑って転んだ際に膝関節を捻ったんだと思います。
ここの骨が外れるとすべてが上へ引っ張られますから
膝蓋骨の位置も上へずれちゃうんですね。
そうすると一見普通に歩いているように見えて実は膝関節の曲げがうまくできなくて
足を突っ張るようにしてしか歩けなくなるんです。

高校時代、クラスメイトがここの剥離骨折をしました。
結局ギプス固定だけの処置だったようですが・・・
運動部に所属していて運動神経抜群のヤツでしたが
結局、卒業するまで足を引きずってましたね。

その光景が頭に残っているものですから、獣医師となった今は
「将来跛行が残るような骨折は何としても治す」と決めてます。

動物の場合は人間よりも体が柔軟ですから、手術せずとも日常生活を支障なく送れることもしばしばです。
しかし、やはり「元に戻す」ことが基本です。
まして子犬が傷を負ってそれを生涯持ち歩く、と言うのも気の毒ですよ。

と言うことでなかなか遭遇しない骨折ですが、かといって全くないわけじゃありません。
フローリングの床の上で子犬を遊ばすのは危険ですからご注意ください。

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