院長 / ニュースレター / 2013.1.13 21:19

前回に続いて皮膚病その2です。

前回はアレルギー性皮膚炎についてご紹介しました。

今回はダニによる皮膚病をご紹介しましょう。
さて、ダニといっても草むらにいるダニとは違います。
動物の皮膚に寄生するダニで、肉眼では確認困難です。
その代表として、「ニキビダニ症」についてご紹介します。
と言いますのも、このダニによる皮膚病の歴史がなかなか興味深いのです。

私が獣医師になりたての頃、このダニによる皮膚病の犬は「淘汰」されました。
まぜなら「免疫不全が原因」と言われていたからです。
高価な純血種においても、淘汰もしくは繁殖には使用しないという状況でした。
しかし、今では免疫不全が原因で発症するものではないことがはっきりとわかっています。
この皮膚病は以下のように4つに分類します。
（1）若年性　局所性
（2）若年性　全身性
（3）老齢性　局所性
（4）老齢性　全身性
ここでいう「若年」とは2歳以下を指しています。
体は1歳で大人になるのですが、皮膚に関しては2歳ぐらいで成熟するという考えによるものです。
この分類によって治療方法が少々異なります。
まず、症状なんですがニキビダニ症の特徴として、典型的な皮膚病変があり
なおかつ「痒みがない」んです。
元々ニキビダニというぐらいですから、寄生部位が決まっており毛穴の中にいます。
毛包というところに皮脂腺をがありますが、そこにいます。
それ以外の場所にはいないので、皮脂腺を絞り出すように組織を取れば簡単に発見できます。

治療は基本的にはダニを殺すということになるんですが、このための薬剤を使用します。
通常は飲み薬として２週間連続投与します。
しかし、犬種によってはこの飲み薬が使用できないものがいます。
それがコリー・シェルティです。この他の犬種でもたまに使えないものがいます。
これらは先天的に特殊な遺伝子欠損があり、殺ダニ剤に対して鋭敏に反応してしまうのです。
その場合は投薬ではなく薬浴治療を行うことになります。


このコリーは鼻のところに脱毛が見られます。

こちらのコリーは眼瞼周囲・鼻・頭頂部にまで脱毛が見られます。
いずれも若年性ですが、最初のコリーが局所性で次のコリーは全身性でした。
最初のコリーはすぐに治まったんですが、茶色の方は全身性でしたので少々時間がかかりました。

最終的にはこのように綺麗に治りました。

局所性とは言ってもあっちこっちに出る場合もあります。


これは同じ犬ですが、最初に他院を受診し「安楽死」を勧められたそうです。
その獣医さんはこの病気についての新しい情報を持っていなかったんでしょうね。

治療を行い約2週間程度でこのように改善しました。

しかし時には治療に反応しない例もあります。


この犬はこれらの状態を行ったり来たりで、良くなったり悪くなったりを繰り返しました。


この犬はケージから出すのが困難だったのでケージの外から写真を撮りました。
なぜかというと、体中から出血・排膿がありその痛みのためものすごく凶暴になっていたためです。
元々はおとなしく人懐っこい犬だったらしいんですけどねぇ。
いずれの症例も結局治療は中断してしまいました。
理由は・・・処分されてしまいました。
私がきちんと治療をしていれば・・・と悔やむこともあります。
しかし、いずれの事例も治らなかった理由があります。
それが「ステロイド投与」でした。
実はいずれも他院で治療を受けており、抗生物質とステロイド剤の投与を長期間受けていたわけです。
ニキビダニ症の診断は簡単で、病変部分の組織・毛を取ってニキビダニがいるかどうか顕微鏡で確認すればいいのです。
この一手間だけで確定出来ます。

実はニキビダニ症の治療時に絶対に使ってはいけないのが「ステロイド剤」です。
これを不用意に使ってしまうと上記の症例のように治療薬に反応しづらくなってしまうのです。
それに、ニキビダニ症は先に書きましたが「痒みがない」皮膚病ですからステロイドを使う必要はありません。
ニキビダニ症は免疫不全が原因ではありませんが、皮膚の免疫力が落ちている状態で発症するのは間違いありません。
よってステロイド剤を投与するとその副作用である「免疫力低下」が症状を悪化させ、また治りにくくします。
そもそもステロイドを使っていいのは「アレルギー性疾患」ぐらいなんですけどね。

正しく診断すれば、正しい治療が出来ます。
決して誤った診断と治療方法をしないこと、これはニキビダニ症だけではなくどんな病気でも同じことですね。